みなさん、こんにちわ。 看護研究科の大日方さくらです(
@lemonkango)です。
よく「看護学校の小児科実習があります。小児科では、どのような検査が有るでしょうか?また吸入や、プレパレーションの他に、どのような事前学習を行えばよろしいですか?」との内容のご相談を多数受けます。
看護学生さんにとって、小児科実習は「未知の領域」であり、成人と違う視点で物事を捉えアセスメントしていく事が重要となります。しかし、まだ、経験も知識もない学生さんがいきなり「小児実習行って来い!と言われても戸惑うばかり
他の科より恐ろしい実施指導者に怒られ、教員にも怒られ・・・ 夜は不眠不休で記録や遊びを考え・・・
泣きながら実習へ・・・
とならないよう、事前に学習を積み重ねて実習にいけるようにしたいものです(それが中々できない・・・)
今回は小児科実習で切っても切り離せない「プレパレーション」について解説したいと思います。
大事な部分だけを列挙しているので学生さんの領域ではこれで十分かと思いますが、やはり臨地実習・・・
これだけじゃ足りないと言われる可能性が高いです。
ですのでしっかりと不足部分は調べて追加学習しておくことをおすすめします。
1.プレパレーションとは
病気・入院・検査・処置などによる子どもの不安や恐怖を最小限にし、子どもの対処能力(頑張ろう、やってみようとする力)を引き出すために、その子どもに適した方法で心の準備やケアを行い、環境を整えること。
1-1.プレパレーションの目的
子どもたちは生活経験が少なく、認識の発達レベルにおいても理解力に限度がある。そのため、病気や入院によって体験する見知らぬ出来事に、恐怖や不安が増すことは避けられない。また、親にとっても子どもの入院や疾病は不安であり、子どもにどのように対応してよいのか分からずにいる事が多くある。
プレパレーションとは、子どもが病気や入院によって引き起こされる様々な心理的混乱に対し、準備や配慮をすることによってその悪影響を和らげ、子どもや親の対処能力を引き出すような環境を整えることである。
プレパレーションの目的は、そのまま親にも適応されることであり、また、親が子どもの支えとなるためにも重要である。直接子どものみ、親のみを対象としたプレパレーションもあるが、基本的には親と子どもの双方に実施される。親は子どもを支える存在としてプレパレーションを受け、子どもの理解者であり協力者となってくれる。
子どもの対処能力を引き出すプレパレーションは、単に準備のための説明や医療知識を提供することではない。子どもの心身の反応を十分に観察しながら、混乱が軽減されるまでの全ての過程(プロセス)を通して実施されるものである。
その間、一つの介入方法が繰り返し行われることもあれば、様々な介入が行われることもある。大事な事はそのプロセスを経ていくことによって子どもの対処能力が培われ、問題やストレスに直面した時に自ら対応することができる力となることを助けることである。
☆看護目標
①子どもに正しい知識を提供すること
②子どもに情緒表現の機会を与えること
③心理的準備を通して医療従事者との信頼関係を築くこと
☆観察項目
①子どもがどのような情報をもっているのか
②どのようなことを知りたがっているのか
③子どもの理解する力はどの程度なのか
☆援助項目
①意図的にごっこ遊びを通して子どもの気持ちを観察する。
②非言語的コミュニケーションの観察
☆情報伝達での配慮点
①分かりやすく覚えやすい教材を作成する
②情報が明確(正確)に伝わるように図式などを利用する
③どのような順序で話すのか予め示す
④子どもができること、参加することの大切さを伝える
⑤医療者もともに協力する姿勢を伝える。
⑥一方的な伝達ではなく、子どもや家族の理解力に応じてフォローする。
<子どもとのコミュニケーション方法> ①子どもと話すときには、子どもの目の高さに合わせる
②静かに落ち着いた声で話す
③出来るだけ少ない言葉で、はっきりと具体的に話す
④肯定的な話し方をする
⑤正直に話す
⑥何が行われるのか事前に知らせる
⑦気持ちを表出するための十分な時間を与える
⑧子どもが答える、反応するための時間を与える。
⑨問題解決に参加できるようにする
⑩子どもの成長・発達の知識を利用して、子どもの発達段階に合わせた接し方を工夫する。
1-2.プレパレーションのプロセス
①アセスメントの段階
②説明の段階
③検査や処置中の気のそらす段階
④終了後の遊びの段階
2.プレパレーションの方法
マシューズ(Mathews.A)ら:3つの方法がある。
(1)情報提供
①検査や処置の手順の説明 手順や順番を説明するときに、子どもの発達年齢に合わせたツールの活用
②子どもが体験する感覚の説明 この感覚が子どもにとって一番の関心事になる。どんな痛みなのか、今まで本人が体験してきた痛みと比較して説明することも効果的
③子どもが取るべき行動の説明 子どもに協力してほしいことと、してほしくない事をはっきりと伝える。 (ex:採血では泣いてもいいから腕を動かさないでほしいことを伝える)
④検査や処置の必要性についての説明
必要性についての説明は当然必要になる。小学生以上になれば原因や症状の理解ができてくるので、必要性を説明すれば、それが子どもの気持ちを引き出すことに繋がる。しかし、就学前の子ども達にとっては、必要性は理解しても対処能力を引き出すことにはならない場合が多くある。「手術してよくなるために採血しなくてはいけないのが分かる?」と子どもに聞くと、多くの子どもが頷くが、「痛いのは嫌だ」と言い、腕を出してくれないことはよく経験することである。
(2)モデリング(成功の代理体験)
モデリングは、ビデオやスライドなどによって、同じ処置や検査を受けている患者を観察し、追体験を促す方法である。子どものため
の喘息教室などもこれに入る。成功の代理体験をすることで、子どもの気持ちを引き出す。
(3)対処行動の促進
これは、子どものストレス・コーピングを考慮して行う方法である。気晴らしや方法を選択すること、支持の探索などが含まれる。泣いたり叫ぶことも一つの対処方法である。
①気晴らしや気分転換 検査や処置以外の話(例えば、幼稚園の先生の話)をしたり、様々な音や光が出るものや動きがあるツールによって注意をそらすなどの気晴らしや気分転換があげられる。
②子どもをリラックスさせる リラクセーション技法は、ストレス反応、すなわち興奮した交感神経の活動を沈静化させる技術である。イメージ方や腹式呼吸がある。
③自己選択肢の提示 例えば、採血をするときに、一人で座ってやるか、抱っこしてもらってやるか、または動かないで出来る自信がなければ、ベッドに寝てナースが動かないように手伝う方法のどれかいいかを選んでもらう事があげられる。 この方法は、幼児後期から有効である。幼児前期では、自分で選んでも実際には動いてしまうことが多いので注意が必要。
④支持の探索 子どもは、両親や医療者、あるいは慰めになるおもちゃとの支持的関係を確立する事を試みる。プレイルームで遊んでいた子どもに「採血だよ」と声をかけると、勢い良く「うん」と答えながらも処置室に入ってこなかったりする。しばらくして自分のベッドから、ペットである怪獣のぬいぐるみを持って処置室に入ってきた。これは楽しいことをする時はペットから離れていることができても、辛い時は、ペットが必要なことを自分で知っていたケースである。
多くの子どもにとって、親は最大の支持者である。子どもにとって辛い検査や処置を見せるのは親にとっても辛いから、離した方がいいと考えている医療者は今でも多くいるが、一緒にいた方がいいのかは、子どもと親に選んでもらうようにすると良い。
3.プレパレーションのステップ
(1)第一段階:子どもと子どもを取り巻く状況のアセスメント
子どもの認知機能については、アセスメントが重要である。処置室に入り、泣きわめいていると子どもの認知能力は、年齢だけでは推し量れない。普段、親が話す事が理解できるのか、言語的発達に問題はないのかなどについて、情報収集する必要がある。子どもが病気をどう理解しているのか、その発達年齢から推測することが重要である。
侵襲のある検査や処置に対する反応は、それまでの痛みに対する経験が大きく影響する。以前行った採血のとき、親から離されナースに馬乗りになって押さえつけられ、逃げようとして大きく動けば抑えられる力も大きくなるという体験をしたとする。そのような体験があると、採血は子どもにとって恐ろしいものとなってしまう。逆に、以前うまくできて自分が動かなければ抑えられないと知っていれば、あまり恐怖は起こらない。毎月採血している2歳の子どもが、全く抑えずにできるのはそうした学習の成果によるものである。
また、検査や処置に対して誰がどのように説明してきたのか、検査があるということを伝えて病院に来たのかなども合わせて情報収集する必要がある。子どもと仲良くなるためには、今までの体験の共感が重要なものとなる。
親との関係もアセスメントする必要がある。親と一緒にするかは子どもと親に選んでもらう方がいいと前述したが、実は親と一緒でないほうがいい場合も時にはある。親が威圧的に「やらなくてはいけないからさっさとしなさい」と命令し、子どもが躊躇する気持ちを受け止めない場合のように、親が子どもの支持者にならない場合がある。子どもと親の関係を見極める事が重要である。
(2)第2段階:子どもと仲良くなることとプレパレーションの計画
1)子どもと仲良くなること
子どもに説明をするときに、説明する人と子どもに信頼関係がなければ、子どもは説明者の話を聞こうとしない。まず、子どもと視線を合わせるために、子どもの目の高さに説明者の位置を合わせる。子どもを見下ろしていては、威圧感を与えてしまうことになる。子どもと仲良くなればプレパレーションもうまくいく。
また、嘘をつかないことが大切である。事実に基づいて説明し、約束出来ないことはしない。練習と言った説明を始めたら、いったん休むようにする。約束を守っていることを子どもに確認しながら信頼関係を築いていくようにする。
2)方法の選択
①時期
子どもの記憶できる期間によって、説明などをする時期は異なってくる。 記憶できる期間は、幼児後期では2-3日、学童中期以降では1ヶ月以上といわれている。
②親への説明
親にプレパレーションの意義について説明し、協働して時期や方法を決める事が大切となる。親自身が、子どもの対処能力を知らないために、子どもにプレパレーションが必要であることを知らないことも多くある。親が子どもに採血の説明をしていない場合、なぜしていないのかを説明すると、「子どもが小さいので説明してもわからないから」「説明するとかえって怖がってしまう」などと答える。
親と一緒にプレパレーションを受けると、親が子どもの対処能力に気づいていく。また、子どもの支持者である親がプレパレーションに理解があると、親もプレパレーションに参加し、効果も上がっていく。
③場所
プレパレーションを行うにあたっては、子どもが安心できる場所を設定する必要がある。処置室に入ってこない時や処置室で怖がっている時は、処置室を出て子どもが今まで待っていた待合室で行ったりするのも良い。
④プレパレーションの方法
子どもの発達や特性に合わせて親と協働して決めていく。
第3段階:(3)プレパレーションの実施
プレパレーションは、何よりも子どもの気持ちを確認しながら進めていくことが大切となる。説明を棒読みするだけではいけない。子どもがどんな反応をしているのかを観察しながら、柔軟に対応していく必要がある。途中で恐怖を表現した時にはそこで一時中止にしたり、混乱をしているときには反復したりしていく。ストレスが大きいと判断した場合は、説明を一度に行わない事も考慮する。
(4)第4段階:ディストラクション(気晴らし)
言語的な説明が理解できない2歳以下の乳幼児には、特に重要な段階である。
また、処置室や手術室の環境整備も非常に重要である。子どもにとって見慣れない器具には覆いを掛けておいたり、カーテンを子どもが和む柄を選んだり、BGMを工夫するのも良い。部屋に入ってきたときに子どもの視線がどこに行くかを考慮してキャラクターの絵を描いておくこともよい効果を得られる。
(5)第5段階:実施したプレパレーションの適切性の評価とその後のフォロー
1)検査や処置終了時の対応 終了時には終わったことをきちんと伝える。そして、頑張りを認め、褒める事が大切である。つらい検査や処置に立ち向かえたことをプラスの体験として伝え、本人の成功体験とできるように、達成感や満足感が得られるように援助する。「頑張った人だあれ?」と聞いた時に、ニヤッと笑う子どもの得意げな顔は印象的である。この子どもの成功体験の積み重ねが病気に立ち向かう力を育むことになる。
親にも、嫌な事を頑張って子どもが成長できた事を伝える。そこにいなかった他の家族にも、成功体験として伝えるように話す。覚悟するのに時間がかかった子どもほど、この話を親にすると涙ぐんで喜ぶことがある。
2)評価 直後の評価としては、検査や処置に協力する態度が見られたか、終了時に自分が頑張れたことを表現できるかなどで評価する。
評価については日本ではまだ文献がすくなく、術前検査のプレパレーションの入院生活への影響や、入院中のプレパレーションの退院後の適応への影響に関する評価はこれからである。
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