摂食障害患者の標準看護計画
摂食障害とは
臨床で問題となることが最も多いのは神経性食思不振症と大食症である。神経性食思不振症は痩せ願望、成人することへの拒否、成長モデルのもてなさの反映などに基づいて意図的に不食行動をとり、著明な体重減少をきたす疾患で、若年の女性に好発する。患者は、自分の痩せ方を客観的に評価できず、現実以上に太っていると思い込む傾向がある。はじめは不食として発症するが、過食、隠れ食い、盗食といったさまざまな食行動異常がみられる。過食した直後に嘔吐したり、下剤・利尿剤などを乱用することもよくある。
アセスメントの視点
身体と精神の双方に障害が生じる疾患であるだけに、食べることにこだわらされるが、そのことにこだわらない対応の工夫が求められる。成因としては家族病理、特に母子関係の障害による自立の困難、思春期における精神・生理的変化、社会文化の影響などが考えられる。患者だけでなく、患者を取り巻く環境にも目を向ける必要がある。
症状
身体症状
著明なるいそう、無月経、便秘、皮膚の乾燥、低カリウム血症、基礎代謝の低下、低血圧、徐脈、CT上可逆性の脳萎縮
精神症状
身体症状に関わらず異常に高い活動性(勉学・仕事に極めて熱心)
性格変化(自己中心的、負けず嫌い、自尊心が強い、周囲に対して敏感、金銭・食物への執着が強い)
食行動の異常
食事量の極端な減少、カロリーの低いものばかり選んで食べる、一人食い、盗み食い、隠れ食い、過食後の自己誘発嘔吐、下剤・利尿剤の乱用
検査
• 生化学、血液一般検査
• CTスキャン
• MRI
• EEG
• SPECT
• ECG
• 心理検査:主にロールシャッハ、MMPIなど
治療
1.精神療法:ボディイメージの障害、認知の歪み、治療継続に伴うストレスなどに対して用いる
2.身体療法: 必要に応じて鼻腔栄養や血管からの栄養補給や中心静脈栄養を用いる
3.薬物療法: 合併する精神症状に抗精神病薬、抗うつ薬・抗不安薬を適宜併用
4.行動制限療法:不適応な問題行動を除去または減弱させて、適応行動を促し強化するために用いる
経過と管理
身体と精神に障害が生じるため一般に予後は不良で、栄養低下のため死亡する例もある。約半数は自然治癒や治療による軽快が望める。るいそうへの希求を表面あるいは内面に保ちながらも社会生活を送れる例もある。しかし、“食”に対する強力なこだわりに基づく行動、性格変化が高度となるため日常生活や社会生活が営めなくなる例も多い。過食を伴う場合は特に予後はよくない。
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
自発的な摂食制限や不食状態の時は、食事摂取状況と身体状況を把握し、栄養状態が悪ければ栄養を補給する。その時、食べることは強要しないで食事や体重へのこだわりを軽減するように関わる。また食べることや体重増加に対する強い不安に対しては、看護者も一緒に考えてくれるのだということを分かってもらい少しでも不安を軽減する。患者は依存対象が決められない不安や見捨てられるのではないかという不安から心理機制が働いていることが多い。このため、患者の言動や行動に振り回されたり巻き込まれたりする危険性があるので対応を統一していく必要がある。
Ⅱ.問題リスト
#1.非協力的な治療態度
[要因]・病識の不足
・ボディイメージの障害
・危機感の欠如
・根強い痩せ願望
#2.著明なるいそうによる生命の危機
[要因]・食行動の異常(拒食、過食、嘔吐)
・過活動による多大なエネルギーの消費
・根強い痩せ願望
・ボディイメージの障害
#3.入院生活によりみられる問題行動
[要因]・病識の欠如
・制限に対してのストレス
#4.アイデンティティーの未確立と成熟への拒否や嫌悪感
[要因]・親子関係の歪み
・未熟な自我
#5.社会生活への不安
[要因]・周囲の理解不足
・親子関係の歪み
・自立への不安
Ⅲ.看護目標
1. 入院治療を受け入れ、落ち着いて過ごせる
2. 自尊心を持ち始め健全な食習慣が形成される
3. 自己決定ができるようになり、家族内の調整ができる
Ⅳ.看護問題
#1.非協力的な治療態度
[要因]・病識の不足
・ボディイメージの障害
・危機感の欠如
・根強い痩せ願望
&入院生活が落ち着いて送れる
$1ヶ月
O-1.精神症状の把握
1)行動状況(過活動)
2)言動(痩せに対する)
3)表情
4)面会時の家族間の言動、行動
5)病識や疾病の理解度
2.日常生活行動
1)排泄
2)更衣
3)清潔(入浴・洗髪など)
4)食事
5)身体の移動
6)睡眠
7)コミュニケーション
3.入院前の食生活の状況
1)拒食
2)過食
3)嘔吐
4)摂取量、偏食傾向
T-1.患者の気持ちを尊重し安心感が持てるように接する
2.強制的な態度をとらず、何でも相談できるような信頼関係をつくる
3.行動が観察しやすいように病室やベッドの位置について配慮する
4.状態に応じてADLの介助を行う
E-1.治療は患者を守るためのもので必要なことを十分に説明する
#2.著明なるいそうによる生命の危機
[要因]・食行動の異常(拒食、過食、嘔吐)
・過活動による多大なエネルギーの消費
・根強い痩せ願望
・ボディイメージの障害
&栄養状態が整い生命の危機を脱する
$2週間
O-1.バイタルサイン
2.顔色、口唇色、爪色、四肢の冷感
3.皮膚の乾燥や浮腫
4.体重、肥満度、最高体重から何㎏減少しているか
5.月経の有無、最終月経
6.検査データ(血算、生化学、内分泌、基礎代謝、BS、尿ケトンなど)
7.意識レベル
8.便と尿量
9.褥瘡の有無
10. 嚥下困難の有無
11. 上腹部不快感
12. 嘔吐の有無、状況、方法、回数
13. 食事摂取量、内容、好んで食べているもの
14. 下剤・利尿剤の乱用
15. 入浴時間・状況
16. 活動状況
T-1.バイタルサインチェックにて全身状態の異常を早期に発見する
2.医師の指示のもとに統一された条件で体重測定
3.状態に応じてADLの介助を行う
4.温かいベッドの準備、温かい衣類の着用による保温
5.経管栄養、高カロリー輸液の際は、自己抜去に注意し確実に管理する
6.経口摂取が可能なら、少しずつ食事摂取の機会をつくり補食も考慮する
7.糖質、たんぱく質と適量の水分補給
8.持ち物点検により浣腸、下剤・利尿剤は持たせない
9.できるだけ安静にし、体重コントロールのための適度の運動は参加を促す
10. 家族とその役割について抱いている感情を表出させる
11. 外泊の目標に沿って評価し、外泊前後の感情、気分、活動を観察する
12. 治療、退院後の計画に家族を患者と一緒に参加させる
#3.入院によりみられる問題行動
[要因]・病識の欠如
・制限に対してのストレス
&制限内で日常生活ができる
$2ヶ月
O-1.制限が守れる
1)安静度
2)清潔
3)制限事項(面会、電話、手紙)
4)食事量
5)間食の有無
6)嘔吐の有無
T-1.行動制限内容を確認する
2.スタッフ間で治療の一貫性を持つため、主治医を交えてカンファレンスを積極的に行い、統一した対応をする
3.嘔気、食欲不振、腹部膨満感などの心気的訴えに対しては、問題がなければ中立的態度で接する
4.その他の訴えに対しても注目や関心を示すことで訴えを強化しないようにする
5.便秘時、本人の訴えがない時はそのまま様子観察し、下剤の希望があれば主治医に報告し指示を受け対処する
6.体重測定時は同一条件のもと行う
7.体重増加がみられなかったり、食事を全量摂取していなくても理由を追及しない
8.体重増加がなかなかしない場合は、嘔吐または食事を捨てていること、下剤などの乱用も考えられるため行動観察を密にし、異常行動があった場合は主治医に連絡する
9.強迫行動をとりやすく、また痩せようと試みるため入浴や洗髪に時間をかけるので入浴日、時間を指定する
10. 食事時間が長い場合は時間をチェックし、問題行動がないか注意する
11. 患者の言動から無断離院が予想される場合は観察を密に行い予防に努める
12. 無断離院発見時には「事故発生に伴う対処」に基づき対処する
13. 無断離院した者が帰院した時は平常心で接し、無理に声を掛けたり離院の理由を問いたださない
14. 同室者に対して治療法を簡単に説明し協力を依頼する
15. 食物や食事自体を話題にせず、情緒的な問題に焦点をあてる
16. 看護者はフラストレーションや怒りなどを感じることがあるが、その感情を意識し、その感情を他のスタッフに表現し、患者との関わりの中で表現しない
E-1.制限事項を破った時はその場で必ず注意し、主治医の指示に基づいて対処する
2.家族に対しては主治医から治療中の面会、電話などの行動制限について説明を行い、協力を依頼する
3.食物、栄養、体重への誤った考えがある場合はスタッフで統一した患者指導をする
#4.アイデンティティーの未確立と成熟への拒否や嫌悪感
[要因]・親子関係の歪み
・未熟な自我
&退行行動が減り、自立と成熟した行動が増す
$4~5ヶ月
O-1.他者とのコミュニケーションのしたか
2.行動
T-1.患者の年齢に応じた接し方をし、患者に対しては年齢相応の振る舞いを期待する
2.できたことに対し、肯定的な支持を与えほめる
3.患者の長所や能力のある事柄に関心を向ける
4.容易にできる仕事や活動から与え、成功の体験をさせ徐々にレベルアップさせる
5.レクリエーション参加を促す
6.ストレスに対する患者の捉え方や反応を知り、ストレスを感じた時は看護者に話すように伝える。また一緒に話し合いストレス
や不安の対処方法を見つける
7.仕事、家族の問題、自立、性、社会生活について思っていることを表現するのを援助する
#5.社会復帰への不安
[要因]・周囲の理解不足
・親子関係の歪み
・自立への不安
&退院に向けて準備ができる
$退院まで
O-1.家族との面接を行い、家族に治療への参加を促す
2.家族とその役割について抱いている感情を表出させる
3.外泊の目標に沿って評価し、外泊前後の感情、気分、活動を観察する
4.治療、退院後の計画に家族を患者と一緒に参加させる
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