腎盂腎炎
1、 病態生理
菌の侵入経路は、一般に上行性(逆行性)であるが、血行哇やリンパ行性、直接浸潤
も考えられている。腎盂腎炎が生じるには、細菌の腎盂上皮への付着能、細菌数、菌力
局所免疫能、患者自身の免疫能の低下などが必要となる。頻度の高い大腸菌のうちP線毛
を持つものは、腎盂に付着しやすいと言われている。
1.原因
細菌による腎盂および腎の非特異的感染による。
1)基礎疾患
(1)腎疾患
①腎結石 ②腎奇形(馬蹄腎、重複腎盂尿管)③多発性嚢胞腎 ④腎盂がん
⑤腎糜造設
(2)尿管疾患
①尿管結石 ②尿管がん ③尿管狭窄
④先天性疾患(腎盂尿管移行部狭窄、膀胱尿管移行部狭窄、拡張尿管)
⑤尿管ステント留置
(3)膀胱疾患
①膀胱結石 ②膀胱がん ③膀胱頚部硬化症 ④膀胱尿管逆流
⑤神経因性膀胱 ⑥尿道カテーテル留置
(4)尿道疾患
①尿道狭窄 ②後部尿道弁
(5)前立腺疾患
①前立腺肥大症 ②前立腺がん
(6)尿路変更術
①尿管皮膚痲 ②回腸導管 ③尿管S状結腸吻合 ④尿禁制型尿路変更
⑤自然排尿型尿路変更
(7)易感染状態
①糖尿病 ②免疫不全状態
2)原因菌
(1)グラム陰性桿菌
①大腸菌 ②緑膿菌 ③変形菌 ④プロテウス ⑤エンテロバクター
(2)グラム陽性球菌
(3)結核菌
(4)真菌
膀胱尿管逆流(VUR)の場合、繰り返す炎症や腎内逆流が生じ、それが繰り返される
うちに腎実質障害を生じる。単に、腎盂腎炎を繰り返すだけでも細菌性感染により腎実質
障害が生じ、腎萎縮、腎性高血圧、腎機能障害などがみられる。
2、 症状
(1)急性腎盂腎炎
①発熱(体温38℃以上)②腰背部痛、脊椎肋骨弓角部の叩打痛
③頻尿 ④排尿時痛
(2)慢性腎盂腎炎
①微熱 ②腰背部痛は軽度(鈍痛・違和感として訴えることが多い)
②急性増悪時は、急性腎盂腎炎の症状を訴える。
3、 診断
(1)①現病歴 ②既往歴 ③生活習慣
(2)検査
①急性腎盂腎炎
a.尿一般検査:尿タンパク陽性、潜血反応陽性
b.尿沈査:蔔尿、細菌尿(主に桿菌)、血尿
c.末血:白血球の増加、CRP陽性
②慢性腎盂腎炎
a.尿タンパク・膿尿・細菌尿は軽度
b.腎機能障害:血清Cr・BUN・CIの上昇、尿膿縮機能の低下
c.画像検査:尿路造影が有用(患側腎の萎縮・腎杯の拡張)
4、 治療
(1)急性腎盂腎炎
①広域スペクトラムの抗菌薬の点滴靜注、投与期間は数日~7日間、原則は単剤だが
重篤なもの、複雑性感染症では2剤を併用する。
② ベッド上安静(発熱による全身消耗、軽減を図る)
③ 脱水予防:経口水分摂取、輸液
(2)慢性腎盂腎炎
①原因菌に対して感受性のある抗菌薬を用いるが、最初から経口薬でよいことが多
い。
②基礎疾患の治療
6. 観察のポイント
(1)現病歴、既往歴、生活習慣(日常生活・食習慣)
二次性腎盂腎炎(①尿流障害 ②代謝障害 ③血行感染巣 ④膀胱カテーテル後の感
染)因子がある場合、再発の可能性が高いため、日常生活予防が大切である。
(2)症状の観察
①悪寒戦慄を伴う高熱
②側腹部・背部の持続性疼痛の程度
③悪心・嘔吐
④ 膀胱炎の合併をしていれば頻尿・排尿痛・尿意頻回
⑤ 尿の観察:混濁の有無、血尿の有無、1日尿量
7. 看護のポイント
(1)急性期
①安静の保持:腎血流量を保持すると共に体力の消耗を抑え、タンパクの消費を節約
する。
② 発熱時は、安静臥床しエネルギーの消耗を防ぎ、解熱に努める。
③ 疼痛時:患者に適した罨法と、指示により鎮痛剤の投与を行う。
④ 悪心・嘔吐による食欲減退により低栄養を来しやすいため、患者の好みに合った
ものを少量ずつ頻回にとれるように工夫をする。嘔吐後は冷水による含漱を行う。
(3)回復期から退院に向けて
再発防止のため、基礎疾患を踏まえた上で個人に合わせた指導が必要である。
① 腎盂腎炎についての知識
② 治療の必要性
③ 再発および再燃の可能性
a.基礎疾患の治療を行うことにより、再発の可能性が低くなることを説明する。
b.脱水予防により尿路感染予防をおこなう。水分摂取量は、通常成人2000~2500
m1/日
c.尿路の適度な膨張を避けるため、常時、膀胱を空にする。
コメント